聖書ギリシア語の夕べ

日本聖書神学校の聖書ギリシア語通信講座でコイネー・ギリシア語を勉強しています

3)横書きの文字の書く向きの違いについて 8

 

 ギリシア語をはじめヨーロッパの言語は左から右へと書く。

 一方、アラビア語など中東の言語は右から左へと書く。

 その理由だが、私が聞いた話では、以下のようないきさつがあったらしい。

 

 大昔、最初に人が文字を書いたのは、紙などの繊維質のものではなく、石や粘土板のような固いものであり、文字の書き方は筆にインクをつけてではなく、ノミと金槌(かなづち)で石や粘土板に刻みつける方法だった。

 人間の9割以上は右利きだから、右手に金槌、左手にノミを持って文字を刻むこととなる。

 後退しながら文字を刻むより、前進しながら文字を刻む方が自然だ。

 そうすると、右から左へと文字を刻む流れになる。

 したがって、当時、文字は右から左へと書かれることが普通であった。

 だから、文字を粘土板に刻む時代から文字を持つセム系の言語では、文字は右から左へと書かれる。

 

 時代が下り、文字は筆とインクを使い繊維質の薄っぺらい用紙に書くようになった。

 石に刻みつけるのは大変な作業だし、粘土板に刻んで文章を書いたら、1冊の本を作るにもとんでもない量の粘土板が必要だ。

 その粘土板を収納するのも大変だし、読むのも大変。読書は肉体労働である。

 何かの小説で読んだが、古代バビロニアの神官が、図書館で読書中、本の重みで本棚が壊れ、本(粘土板)が落ちて圧殺されてしまう話があった。

 当時、読書は大変な作業であり、また粘土板で本を書けば、とてつもなく広い収納スペースが必要だった。

 そこで文字を記す媒体として、パピルス紙や羊皮紙などが発明された。

 これらの用紙は粘土板と違いノミと金槌で刻みつけるわけではない。

 筆をインクに浸し、そのインクで文字を書きつける。

 そうすると、これまた人は右利きが多いから、右から左へと文字を書いた場合、書いてすぐの文字の上を手でこすることとなる。

 粘土板に文字を刻む場合、書かれた文字の上を手でなぞっても問題ないが、インクをつけただけの紙ではインクが乾く前に触ったら字がにじんでしまう。

 そこで、書いたばかりの文字に触れないように書くため、右から左へと文字を書くようになった。

 したがって、ギリシア文字など、パピルスや羊皮紙の時代から用いられた文字は、それらに合わせ左から右へと書くようになっている。

 

 以上が、西洋の文字の横書きの書く方向の話。

 

 一方、東洋では、漢字は基本的に縦書きであり、日本語の仮名文字も縦書。

 本来、日本語は縦書きで、行(ぎょう)は右から左へと向かう。

 そのことから、明治時代以前の日本では、横書きで文字を書く時、縦書きを1字で改行する感覚で、右から左へと文字を書いていたようだ。

 日本で最初に横書きで左から右へ文字が書かれたのは、江戸時代の外国語辞書だったらしい。

 その後、大正時代から左から右へと文字が書かれることが増えた。

 そして、大正時代から昭和初期、日本が戦争に負けるまでは、日本古来の右から左と西洋渡来の左から右の2つの書き方が混在していた。

 戦時中の新聞などを見ると、見出しは右から左の横文字で本文は縦書きになっていたりする。お札などでは、日本銀行は“行銀本日”と書かれ、ローマ字は“Nippon”となっている。

 日本で横文字の書き方が左から右へと統一されたのは、戦後のことらしい。

 今では相当、年代物でないと、右から左へ書かれたものは見ない。

 右から左へと書かれた文字を見ると、私は「年代物だな~」と感じてしまう。

 

 

5)ギリシア語のアルファベットは三本罫線の用紙で練習すべし 7

 

聖書ギリシア語通信講座の添削課題。

第1回目は6月13日に発送し6月24日に返信が来た。

まず最初にアルファベットを記入するのだが、その添削が以下の写真。

 

 

 ζ ς は、下に飛び出さなければいけない。

ρ は、英語のpではなく、下に飛び出、一筆書きで書く。

 

 ギリシア語のアルファベットは、罫線の上や下に文字が出ていて、アップダウンがあるのだが、なかなかそれに気づきにくい。

 語末のシグマやキーなどは要注意だろう。英語の文字と同じ、または似ていても、下に飛び出ていたり、上に突き抜けていたりと、違うことがある。

 英語の先入観を一旦捨て、新しい文字を習う感覚でギリシア文字を覚える必要がある。

 

 ギリシア文字については、堀川宏先生の「しっかり学ぶ初級古典ギリシャ語」で昨年から勉強していたので、形については問題なかったが、上に出たり、下の引っ込んだりは盲点だった。

 日本語のカナ文字や漢字は上下が出たり入ったりはない。正方形のマス目に収まるように書く。そのため、縦書きでも横書きでもできるのだが、ヨーロッパの諸言語の文字はそうなっていない。

 

ギリシア文字の特徴

Α α:大文字はラテン文字のAと同じだが、小文字は右側が微妙に異なる。

Β β:大文字はラテン文字のBと同じだが、小文字は大文字そっくり。

  小文字の左の棒がしたに突き抜けている。

Γ γ:ラテン文字にない文字。大文字は簡単だが、小文字は下に出るので注意。

Δ δ:ラテン文字にない文字。大文字は三角。小文字は頭にひげがついたo。

Ε ε:大文字はラテン文字のEと同じだが、小文字は違うので注意。

Ζ ζ:大文字はラテン文字のZと同じだが、小文字は違う。

  小文字は下に少し出るので注意。

Η η:大文字はラテン文字のHと同じだが、発音は長母音エーで全く違う。

  小文字はラテン文字にない文字。

Θ θ:ラテン文字にはない文字。大文字と小文字の違いがわからない。

  大文字、小文字共に上に飛び出る。

Ι ι:大文字はラテン文字の I だが、小文字は頭に点がないただの棒なので注意。

Κ κ:大文字はラテン文字のKだが、小文字は大文字のKを小さくしただけの文字。

  ラテン文字とは違い左の棒が上に出ないので注意。

Λ λ:大文字はAの中の棒がない形。小文字は漢字の入。

Μ μ:大文字はラテン文字のMだが、小文字は独特な文字。左側の棒を伸ばす。

Ν ν:大文字はラテン文字のMだが、小文字はラテン文字のv。

Ξ ξ:大文字は漢字の三。小文字はくねくね3つ。

Ο ο:大文字、小文字ともにラテン文字と同じ。

Π π:大文字は台の形。小文字は数学でおなじみにパイ。

Ρ ρ:大文字はラテン文字のPだが、小文字はpに見えて微妙に違う。

  発音はラテン文字とは全く違い、子音のr。

  小文字は棒が下に突き抜け下から一筆書きで書く。

Σ σ ς:語末だけはςと書く。ςは少し下に飛び出すので注意。

Τ τ:大文字はラテン文字のTと同じだが、小文字は上に突き抜けないので注意。

Υ υ:大文字はラテン文字のYと同じ。小文字はラテン文字のUに近い。

Φ φ:丸を書いて棒を書く。団子。

Χ χ:ラテン文字のXだが、小文字は下に突き抜けるので注意。

Ψ ψ:燭台のような形の文字。

Ω ω:大文字は有名な時計メーカー商標となっている文字。小文字は下が尖らないw。

 

 最初、ギリシア文字は丸っこくて違和感があったが、慣れてくると、柔らかい感じがするよい文字だと感じるようになった。

 ギリシア文字を習ってから、ラテン文字を見ると、ラテン文字のは少し固い角張った印象を持つ。ギリシア文字がひら仮名でラテン文字がカタ仮名のような感覚だ。

 

 

4)山の学校「ギリシャ語の夕べ」に参加した感想 6

 

 京都市にある”山の学校”は、唯一、一般人が古典ギリシア語をオンラインで学べる学校だ。

 この通信講座を受講する前、どちらにしようか迷い、山の学校が定期的に開催しているプロモーション授業「古典語の夕べ」シリーズの「ギリシャ語の夕べ」(2022年4月2日(土))を受講してみた。

 

 この授業は1時間30分のオンライン授業だが、1回3,500円かかる。

 講師は山の学校で古典ギリシャ語の講師をされている広川直幸先生。

 

 プロモーション授業なので、ギリシア語の変遷と、古典ギリシア語初級のクラスでは、いつの時代のギリシア語を学ぶのか?など授業の紹介をし、その後。少し授業体験をした。

 

 大学の講義を受けているような感覚で受講できる。前半は、歴史が好きなら興味深く聞ける話。後半は、ギリシア語のアルファベットと書き方の説明とギリシア語の発音について。1時間30分、飽きずに聴ける話だった。

 

 この授業で私が学んだことは以下の3つ。

 

  1)読みたい古典で学ぶギリシア語を選ぶこと。

  2)ギリシア文字はラテン文字と同じに見える文字も少し違うので注意が必要。

  3)発音は厳格でなくてもよい。

 

 ギリシア語といっても長い歴史がある言語。地域ごとに方言があり、時代ごとに異なる。

 古典期(BC8世紀~BC4世紀)のギリシア語は3つの大きな方言に分かれている。

 当時の作品の多くはイオニアアッティカ方言だが、ドーリス方言やアイオリス方言で書かれた作品もある。

 読みたい古典を決め、その特徴を調べ、どのギリシア語を習うかを考える必要がある。

 この広川先生の授業では紀元前4世紀のイオニアアッティカ方言(一般的な古典ギリシア語)が対象。

 

 ギリシア文字はラテン文字と重なるものも多い。ラテン文字ギリシア文字が由来なので、それも当然だ。

 しかし、似て異なる文字や、同じ文字なのに発音がまったく違う文字、大文字と小文字がラテン文字とは異なる文字など、いろいろと違いもあり、一つ一つチェックしていく必要がある。

 

 発音に関しては、日本人が古文(古典日本語)を読む時、現在日本語の発音で読むように、古代の発音ははっきりしたことは分からないので、そこまで気にしなくてもよい。

 アメリカ人などは、英語のように抑揚をつけて読むし、ギリシア人は現在ギリシア語のように読む。

 

 初級は、人から教えてもらうとなると、時間がかかる割に少ないことしか聞けない。

 広川先生の授業、飽きずに1時間30分聞けたが、後から思い返してみると、上記、3つのことを学んだにすぎない。

 アルファベットは、自分で書いて覚えるしかないし、発音は記号を見れば分かる。

 授業は自分から勉強しなくても、他人が教えてくれるので、努力しなくても頭に入ってくる。

 ただ、それを記憶として定着させるには、復習が必要。

 結局、勉強は必要。楽はできない。

 

 私は通信講座にしたが、古典ギリシア語の授業には興味が尽きない。

 金銭的な余裕があれば、山の学校の授業もオススメだ。

 

 

2)原シナイ文字からフェニキア文字を経てギリシア文字へ 5

 

 ギリシア語は紀元前18世紀から紀元前15世紀まで線文字Aと呼ばれる文字(未解読)で書き記されていた。

 その後、紀元前13世紀まで線文字Bで書き記されていたが、その後、500年間、文字記録が消えてしまった。

 この時期を古代ギリシアの暗黒時代と言い、謎の空白期間となっている。

 その後、フェニキアから文字が伝わり、紀元前8世紀、現在まで使用されているギリシア文字が使われるようになった。

 

【 原シナイ文字 】

 エジプトの象形文字の一部を抽出し、その頭音を用いることで作られた文字。

 

フェニキア文字

 原シナイ文字から作られたフェニキア語(セム系の言葉)を書き記した文字。この文字からギリシア文字が作られた。

 

 セム系の言葉では文字はすべて子音を表す。母音の文字はない。したがってフェニキア文字はすべて子音を表す。(現在、セム系の言葉は記号で母音を表している)。ギリシアでは、本来、子音を表す文字をかり、母音にあてた。子音も母音も文字で表すアルファベットは、ギリシア文字が最初。

 

 

アルファベットの解説

 

一番上が原シナイ文字、真ん中がフェニキア文字、一番下がギリシア文字。

 

 

【 Α α アルファ 】牛の頭が由来の数としては1を表す文字

 原シナイ文字では牛の頭を横から見たような形。フェニキア文字では「アレフ」と呼ぶ。この文字を90度回転しギリシア文字の「アルファ」となった。本来は子音であったが、ギリシア語には必要のない子音だっため、ギリシア語では[a]の音を表す母音の文字として使用。

 

【 Β β ベータ 】家が由来の数としては2を表す文字

 原シナイ文字では四角形で家を形どった絵文字。フェニキア文字では「ベト」と呼ぶ。この文字がやや傾き45度回転しフェニキア文字となり、三角の山が2つでき、180度回転し、裏返しになってギリシア文字の「ベータ」になった。古典ギリシア語では[b]、現在ギリシア語では[v]の音を表す文字。

 

【 Γ γ ガンマ 】ラクダが由来の数としては3を表す文字

 原シナイ文字ではラテン文字のLによく似た形。ラクダが由来。180度回転しフェニキア文字の「ギメル」となり、裏返しにしてギリシア文字の「ガンマ」となった。ギリシア語では[g]の音を表す文字。

 

【 Δ δ デルタ 】扉が由来の数としては4を表す文字

 原シナイ文字では魚のように見えるが、これは扉。フェニキア文字の「ダレト」となり、ギリシア語の「デルタ」となった。ギリシア語では[d]の音を表す文字。

 

【 Ε ε エプシオン 】人が喜ぶ姿が由来の数としては5を表す文字

 原シナイ文字では人が両手をあげているように見えるが、これは人が喜ぶ姿。フェニキア文字では「ヨ」の文字の縦棒を伸ばしたような形。フェニキア文字の「へー」となり、180度回転しギリシア文字の「エプシロン」となった。フェニキア文字では子音の[h]を表す文字だったが、ギリシア語では[e]の音を表す文字となった。

 

 

 

【 Ζ ζ ゼータ 】オリーブの木が由来の数としては7を表す文字

※6を表す文字はシグマの語末形「ς」なので、「ゼータ」は7を表す文字になる。

 原シナイ文字では、横に2本の棒を引いた形、イコールの記号のような文字。フェニキア文字では縦一本のラテン文字の「 I 」に似た文字となり、フェニキア文字では「ザイン」と呼ぶ。上の棒と下の棒が伸び縦の線が斜めとなりギリシア文字の「ゼータ」となった。ギリシア語の[zd]の音を表す文字。

 ラテン文字では、この位置に新たに創出した「G」の文字を置き、ギリシア語起源の単語を書くときのみ使われる「Z」はアルファベット配列の一番最後に置かれた。

 

【 Η η エータ 】ねじれた紐が由来の数としては8を表す文字

 原シナイ文字では、団子のような形をしていたものが、フェニキア文字ではハシゴのようになり「ヘト」と呼ぶ。フェニキア文字では子音を表す文字であったが、ギリシア語では[e-]の母音があてがわれ「エータ」となった(現在ギリシア語では[i]の音)。ラテン文字とは読みが全く異なるので注意が必要な文字。

 

【 Θ θ シータ 】由来は不明の数としては9を表す文字

 原シナイ文字の由来は不明。フェニキア文字では漢字の田の字に似た文字。十字を書いてそれを丸で囲んで文字にしていたようだ。フェニキア文字の「テット」。ギリシア語では「シータ」となり、発音は[th]。

 

【 Ι ι イオータ 】腕が由来の数としては10を表す文字

 原シナイ文字では、横から見た腕に手首や指が想像される字形をしてる。フェニキア文字の「ヨッド」。該当する子音がギリシア語になかったため、[i}の音を表す文字となった。

 

【 Κ κ カッパ 】手のひらが由来の数としては20を表す文字

 原シナイ文字では「手のひら」を意味していた文字。フェニキア文字「カフ」ギリシアに伝わって来る過程で左方向に90度回転し、裏返しにされたりして、ギリシア語の「カッパ」となった。ギリシア語では[k]の音を表す。

 

 

 

【 Λ λ ラムダ 】突き棒が由来の数としては30を表す文字

 原シナイ文字では握りのついた杖のような形。フェニキア文字の「ラメド」。フェニキア文字では180度回転し、ラテン文字のLに似た文字となり、さらに回転しギリシア文字の「ラムダ」となった。ギリシア語では[l]の音を表す文字。

 

【 Μ μ ミュー 】水が由来の数としては40を表す文字

 原シナイ文字では山並みにも見えるが、これは波立つ水面を描いた絵文字。フェニキア語の「メム」となり、ギリシア語の「ミュー」となった。[m]の音を表す文字。大文字はラテン文字と同じだが小文字は左の棒が下に伸びた独特の形。

 

【 Ν ν ニュー 】蛇が由来の数としては50を表す文字

 原シナイ文字ではヘビのような形。フェニキア文字の「ヌン」。ギリシア文字に入り、古典期は「ニュー」、現在は「ニ」と呼ぶ。[n]の音を表す文字。

 

【 Ξ ξ クシー 】魚が由来の数としては60を表す文字

 原シナイ文字では「魚」を形どった文字。フェニキア文字では「サメク」と呼ぶ。ギリシア語では[ks]の音を表す。

 

【 Ο ο オミクロン 】目が由来の数としては70を表す文字

 原シナイ文字では「目」を形どった文字。フェニキア文字では「アイン」と呼ぶ。黒目の点が消えフェニキア文字となり、それが縦長の楕円となりギリシア文字の「オミクロン」となった。本来は子音を表す文字だったが、ギリシア語にはない子音だったため、母音の[o]があてがわれた。

 

 

 

【 Π π ピー 】口が由来の数としては80を表す文字

 原シナイ文字で口を意味する絵文字に由来。フェニキア文字では2本の棒となり「ペー」と呼ばれ、ギリシア語では左右対称の文字となり頭にふたがかぶさり「ピー」となった。[p]の音を表す文字。

 

【 Ρ ρ ロー 】人の頭が由来の数としては100を表す文字

※90を表す文字は「コッパ」という記号。

 原シナイ文字では人の頭を表す絵文字だったものが、簡略化され、反転し、フェニキア文字の「レシュ」となり、ギリシア文字の「ロー」となった。[r]の音を表す文字。ラテン文字では[p]の音を表す文字。発音が異なるので注意。

 

【 Σ σ ς シグマ 】歯が由来の数としては200を表す文字

 原シナイ文字では山並みに見えるが、これは人間の歯。ラテン文字のWみたいな形になりフェニキア文字「シン」となる。ギリシア文字では大文字の他、小文字が2つあり、語末のみは「ς」と書く(この文字は単独で数字の6を表す)。ギリシア語では[s]の音を表す。

 

【 Τ τ タウ 】標識が由来の数としては300を表す文字

 原シナイ文字では十字の印。フェニキア文字の「タウ」。ギリシア文字でも「タウ」。[t]の音を表す。ラテン文字の小文字は縦棒が上へ突き抜けるが、ギリシア文字では小文字も大文字と同じで突き抜けないので注意。

 

【 Υ υ ユープシロン 】棍棒が由来の数としては400を表す文字

 原シナイ文字ではピンのように見えるが、これは棍棒フェニキア文字ではさすまたのような形になり「ワウ」と呼ぶ。左側のFのような文字は「ディガマ」で現在使われていないが、同じ文字が由来のため併記した。[y]の音を表す。

 

 

 

【 Φ φ フィー 】ギリシアで作られた数としては500を表す文字

 ギリシアで新しく作られた3文字(Φ Χ Ψ)の一つ。[f]の音を表す。もともとはπηの二文字でこの発音を表していた。そのため今でもΦをラテン文字ではphで表す。

 

【 Χ χ ヒー 】ギリシアで作られた数としては600を表す文字

 ギリシアで新しく作られた3文字(Φ Χ Ψ)の一つ。[k]の音を表す。ラテン文字とは読みが異なるので注意。ちなみにクリスマスのことをXマスと呼ぶのはギリシア語でのキリストの呼び名、Χριστός(クリストス)の頭文字に由来する。

 

【 Ψ ψ プシー 】ギリシアで作られた数としては700を表す文字

 ギリシアで新しく作られた3文字(Φ Χ Ψ)の一つ。[ps]の音を表す。Yの字から新しく編み出された文字。私はこの文字を見るとユダヤの伝統的な燭台(メノーラー)を連想してしまう。

 

【 Ω ω オメガ 】オミクロンと由来は同じ数としては800を表す文字

※900を表す文字はサンビという記号。

 フェニキア文字「アイン」の底を開いて作った文字。オミクロンと由来は同じだが、こちらは長い母音、[o-]を表す。時計メーカーの商標として有名。

 また「最初から最後まですべて」との意味で「アルファからオメガまで」が使われる。

 

 由来は、諸説あり、これはその中の一説。

 このページは、福田千津子 著「現代ギリシア語を書いてみよう読んでみよう」(白水社)、およびウィキペディアなどから情報を集め作成した。

 

 

3)新約聖書ギリシア語のアルファベットと記号および基本文法 4

 

Α α Β β Γ γ Δ δ Ε ε Ζ ζ Η η Θ θ Ι ι Κ κ Λ λ Μ μ Ν ν Ξ ξ Ο ο Π π 

Ρ ρ Σ σ ς Τ τ Υ υ Φ φ Χ χ Ψ ψ Ω ω

 

 先頭が大文字、後ろが小文字。Σは小文字が2つある。

 Η η  Ρ ρ Υ υ Χ χ の4文字は、英語のアルファベットにもある。しかし、読み方が違うので、注意が必要だ。

 またΝの小文字νは英語のvに見える。

 このあたりを気をつけアルファベットを覚えれば問題ない。

 だだし、ςは下に飛び出したり、ρはpと違い、線が下に飛び出たり、Χも下に飛び出るなど、英語とは微妙に違う。

 

 

1)ギリシア語での読み方(コイネー時代)

 

 Α a アルファ Β β ベータ Γ γ ガンマ Δ δ デルタ Ε ε エプシーロン

 Ζ ζ ゼータ Η η エータ Θ θ セータ Ι ι イオータ Κ κ カッパ

 Λ λ ラムダ Μ μ ミュー Ν ν ニュー Ξ ξ クシー Ο ο オミクロン

 Π π ピー Ρ ρ ロー Σ σ ς シグマ Τ τ タウ Υ υ ユープシロン

 Φ φ フィー  Χ χ キー Ψ ψ プシー Ω ω オーメガ

 ※ς は語末の形。

 

 

2)ギリシア語の音価(コイネー時代)

 

 Α α ア [a] Β β ブ [b] Γ γ グ [g] Δ δ ヅ [d] Ε ε エ [e] 

 Ζ ζ ズ [z] Η η エー [e-] Θ θ ス [th] Ι ι イ [i] Κ κ ク[k]

 Λ λ ル [l] Μ μ ム [m] Ν ν ン [n] Ξ ξ クス [ks] Ο ο オ [o]

 Π π プ [p] Ρ ρ ル [r] Σ σ ς ス [s] Τ τ ツ [t] Υ υ ユ [u]

 Φ φ フ [f] Χ χ ク [kh] Ψ ψ プス [ps] Ω ω オー [o-]

 

 

3)ギリシア語の複合母音(コイネー時代)

 

 αι アイ αυ アウ ει エイ ευ エウ οι オイ ου ウー

 υι ユイ ᾳ アー ῃ エー ῳ オー

 Ι:下書きのイオータ

 

 

4)ギリシア語の注意すべき子音(コイネー時代)

 γ は基本的に[g]の音だが、κ γ χ ξ の前では[ng]の音。

 σ は基本的には[s]の音だが、β δ γ μ の前では[z]の音。

 

 

5)ギリシア語の気音符(コイネー時代)

 

 語が母音または複合母音で始まる場合につけられる。

 ᾽ :軟気音符 ῾:硬音符

 軟気音符がついても発音に変化はない。

 硬気音符がつくと頭にhの子音がつく。

 ἁ ハ ἱ ヒ ὑ フュ ἑ ヘ ὁ ホ ἡ へー ὡ ホー

 αἱ ハイ 二重母音は二文字目につく。

 

 

6)ギリシア語のアクセント(コイネー時代)

 

 アクセントは英語のような強弱ではなく、日本語のような音の高低。

 ´:鋭アクセント その母音を他よりも高く読む。

 `:低(重)アクセント 実質的に無アクセント。

 ῀:曲アクセント 母音の前半を高く、後半を低く読む。

 

 

7)ギリシア語の句読点(コイネー時代)

 

 コンマ( , )句の終わりにつける最も小さい文の区切り。

 コロン( · )コンマよりは大きな分の区切り。

 段落点( . )文の終わりにつける文の大きな区切り。

 疑問点( ; )文が疑問文であることを示す記号。

 

 

8)基本文法

 

1.ギリシア語の名詞は性を持つ。性には、男性、女性、中性、と三種類ある。また単数と複数の別がある。

 

2.ギリシア語の名詞には5つの格がある。(コイネー時代)

 第1格( 主格:nominative ) は、が

 第2格( 属格:genitive )    の

 第3格( 与格:dative )    に

 第4格( 対格:accusative ) を

 第5格( 呼格:vocative )     よ

 

3.名詞の語尾変化の土台となる部分をその語幹という。

 λόγος (語幹:λόγο-)  γραφή(語幹:γραφα-)

 ὄνομα (語幹:ὀνοματ-)

 λόγος:言葉 γραφή:書物 ὄνομα :名前

 

 

2)日本聖書神学校「聖書ギリシア語 通信講座」の概要 3

 

 日本聖書神学校「聖書ギリシア語 通信講座」は、日本聖書神学校のホームページから申込用紙(PDF)をダウンロードし郵送で申し込むか、電子メールで申し込む。私は電子メールで申し込むことにした。

 

 メールに書き込む必要事項は以下の通り。

 1.添削とDVD教材 36,000円、2.添削のみ(DVDをお持ちの方)27,000円、3.DVDのみ購入(添削なし)18,000円 どれか一つを選択。

 個人情報を記入する。名前とふりがな。住所、電話番号、メールアドレス。所属教会(キリスト教徒でない人、教会に所属していない人は不要)

キリスト教徒でなくても聖書のギリシア語を学びたい方は誰でも受講できる。

 教科書を一緒に購入する場合は、その旨を記入。

※この教科書は古い版がメルカリなど中古品売買サイトにあがっている。この授業で使う新版と内容はそこまで違わないとは思うが、記載順序など少しでも違うと授業に差し支えるので、高い教科書だが、購入した方が無難だ。

 受講料と教科書の合計金額を記入。

 以上の内容を記入の上、日本聖書神学校 総務部 「聖書ギリシア語通信講座」係のメールアドレスへ送信。

 

 メールを送ってから3日4日で教材と受講料および教科書代の振込用紙が届く。

 振込用紙は郵便局の振込用紙なので、郵便局から振り込む場合、手数料が無料となる。

 ただし郵便局の口座から振り込む場合が無料。財布からお金を出し窓口を通して振り込みをすると振込手数料が110円かかる。

 

 送られてきた教材はDVD6枚と教科書1冊。

 添削指導は、任意の用紙に練習問題の解答を書き、郵送でやり取りすることになる。

 

 6枚のDVDは、1枚、2巻に分かれ、それぞれ6項目に分かれている。1項目20分。2項目づつ区切りが入り、1巻視聴するのに2時間。DVD1枚視聴するのに4時間。すべてのDVDを視聴するのに24時間かかる。

 DVDでは日本聖書神学校の笠原義久(カサハラ ヨシヒサ)先生(現:日本基督教団信濃町教会牧師、日本聖書神学校兼任教授)が講師を務められ、コイネー・ギリシア語についてサラリと解説してくれる。

 本当、サラリと解説するだけだが、大事な点はしっかり把握できる。

 

 教科書は、日本神学校(現:東京神学大学)の講師を務められた玉川直重(タマカワ ナオシゲ)先生(故人)が書かれ、一橋大学名誉教授の土岐健治(トキ ケンジ)先生が監修をされた「新約聖書ギリシア語独習」だ。

 この本は先述したキリスト教関連の教科書なので、初歩的な知識は乏しい。この教科書を使いつつも、堀川宏先生の「しっかり学ぶ 初級古典ギリシャ語 文法と練習問題」を参考にした。

 またこの教科書の練習課題には解答がついていない。答え合わせをするには、コイネー・ギリシア語に詳しい方に聞くか、この通信講座で添削指導をつける必要がある。

 

 添削指導は郵送のみ受け付けてくれる。

 解答を送付してから返ってくるまで2週間から3週間が目安とのことだが、だいたい10日ぐらいで返ってくる。

 添削指導は日本聖書神学校の菅原裕治(スガワラ ユウジ)講師が御担当をされ、受講開始から3年間、受けられるとのこと。

 赤ペンで一つ一つ丁寧に解説してくれるので、学校で授業を受けているように勉強できる。

 郵送での添削指導、かなり手間なので、申し込み時、つけるかつけまいか悩んだ。

 添削指導をつけなければ、この通信講座は6枚のDVDと1冊の本を購入するだけ、DVD18,000円(税込)と教科書4,400円、合計22,400円ですむ。

 しかし、添削指導をつけないと教科書の練習課題の答え合わせができない。

 そのため、添削指導をつけることにした。

 添削指導は、教科書の練習課題の答え合わせのみならず、教室で授業を受けているような懇切丁寧な指導が受けられるので、つけてよかったと感じている。

 

 

 受講の流れとしては、以下の通りだ。

 あらかじめ教科書を読み基礎的な単語と活用形を覚えてから、その講義を2項目(教科書の2課分)、40分聞く。

 その後、教科書の練習課題をレポート用紙に解答する。

 レポートがたまったら、封筒を用意し封入。返信用封筒も添付し封をする。

 その後、ポストに投函。

 これだけで3時間ぐらいかかる。

 添削指導は3週間が目安とのことだが、だいたい10日ぐらいで返ってくる。

 ざっとこんな感じである。

 

 次回からは、この教材を使った学習の状況についてブログに書いてみたい。

 

送られて来た教材(教科書含む)

 

 

1)日本聖書神学校「聖書ギリシア語 通信講座」を受講した経緯 2

 

 新約聖書ギリシア語の勉強を始めるにあたり、最初に悩んだのが教材選び。

 英語や中国語と違い、書店に行ってもギリシア語の教材はほとんど扱っていない。

 インターネットで調べるも、東京や大阪などの大都市では教室が開かれているものの、私の住む愛知県で勉強できる場所は、神学校か外国語大学の西洋古典専攻ぐらい。

 オンラインで受講できる場所を探すと、京都の山の学校が古典ギリシア語の授業をオンラインで行なっているとのこと。

 入学金1万円で、年3期、1期12回で4万円ほどかかる。1年で36回、合計13万円だ。

 

 まず、朝日カルチャーセンターで講師をされている植田かおり(ウエダカオリ)先生が書かれた「古典ギリシア語のしくみ」を読んでみた。

 この本は都市国家時代のギリシアと古典ギリシア語がどのようなものか簡単に述べられており、ギリシア語の概要をつかむのに役立った。

 次に獨協(ドッキョウ)大学専任講師の堀川宏(ホリカワ ヒロシ)先生の著書「しっかり学ぶ 初級古典ギリシャ語 文法と練習問題」をやってみた。

 堀川先生のこの本は、とても分かりやすく初心者が古典ギリシア語をギリシア文字から学べるよい本だ。

 堀川先生の本を購入する前に、キリスト教関連の団体が出版している新約聖書ギリシア語の教科書も買ってみた。

 神学校の先生方が書いた教科書は、基礎知識があまり解説されておらず、ギリシア文字から入る全くの初心者には難しすぎると感じた。

 新約聖書は、古典ギリシア語ではなく、それより時代が下ったコイネー・ギリシア語(共通ギリシア語・新約聖書ギリシア語)で書かれている。

 でも古典ギリシア語もコイネー・ギリシア語も同じギリシア語。

 古典ギリシア語の方が教材が充実しているので、古典ギリシア語から初歩的な知識を得るのはコイネー・ギリシア語学習の王道のようだ。

 しかし、確かにコイネーギリシア語は古典ギリシア語から続くギリシア語だが、時代による変化や国際共通語にするにあたり変更した箇所もある。古典ギリシア語とまったく同じ言葉ではない。

 古典期にあった下書きのι(イオータ)の発音が無音化したり、双数形がなくなったり、また、呼格の代わりに主格が使われる頻度が増えたり、いろいろと違いがある。

 

 ひと通りギリシア語のさわりを勉強し、次に本格的にコイネー・ギリシア語を勉強してみたいと思った。

 そこでインターネット検索をしていて見つけたのが、日本聖書神学校の「聖書ギリシア語 通信講座」だ。

 6枚のDVDを視聴し、教科書の練習課題を解き、添削指導を受ける方式。

 教科書を一緒に購入する場合、総額40,400円(税込)だ。

 通える範囲にギリシア語の学べる教室がなく、また、オンライン教室は先述した“山の学校”の古典ギリシア語クラスしか見当たらない。

 通信講座もこの講座以外、インターネット検索であがって来なかった。

 他に選びようもないので、とりあえず、この講座を受講してみた。

 

 2022年5月20日に申し込み。5月23日に教材が届き、受講開始。

 

 

1)ギリシア?ギリシャ?新約聖書の原典について 1

 

1)ギリシアギリシャ

 

 日本語の “ギリシア” は、ラテン語のGraecia(グライキア)に由来する。

 戦国時代、ポルトガル語のGrecia(グレシア)から “ギリシア” となった。

 意外と古い日本語だ。

 また、過去にはギリシヤやゲレシヤ、また漢字の希臘(シーラー)などが使われてきた。

 

 現在はギリシアギリシャの2つの表記が主に使われている。

 ギリシアギリシャのどちらも、ギリシア語での呼び名、ヘッラス(古典期)、エラーザ(現在)からはかけ離れている。

 だから “どちらが正しく、どちらが誤っている” とは言えない。

 傾向としては、古典や学術的なものは “ギリシア”、国名表記や観光関連では “ギリシャ” の表記が多いようだ。

 ビザンツ帝国滅亡前のギリシアを “ギリシア” と呼び、それ以降のギリシアを “ギリシャ” と呼ぶ人もいる。

 どちらを使うかは人それぞれ。統一した見解はない。

 新約聖書関連の書物では “ギリシア” の表記が多い。

 そこで、このブログでは “ギリシア” で統一した。

 

 

2)新約聖書ギリシア

 

 新約聖書は世界で最も多くの人に読まれている本だ。

 しかし、その原典が何語で書かれたか知らない人は多い。

 “旧約聖書は、ユダヤ人の言葉、ヘブライ語で書かれたのだから、新約聖書も同じくヘブライ語で書かれたのではないか?”

 “キリスト教ローマ帝国で起こった宗教だから、どちらもローマ帝国公用語ラテン語で書かれたのではないか?”

 キリスト教から聖書を知った私は “どちらもラテン語で書かれている” と考えていた。

 “新約聖書ギリシア語で書かれた” と知った時、

 なぜギリシア語なのか!と、とても驚いたものだ。

 キリスト教ユダヤ人の宗教であるユダヤ教を母体としており、そこから枝分かれした宗教。旧約聖書が、ユダヤ人の言葉、ヘブライ語で書かれたことは分かる。

 しかし、なぜ新約聖書ギリシア語で書かれたのか?

 

 キリスト教が起こった1世紀の東地中海沿岸地方は、ローマ帝国に支配されていた。

 ローマ帝国の言葉といえばラテン語。それは確かだ。

 しかし、ローマ帝国に支配される前、この地域はアレクサンドロス大王の遠征(BC334年~BC323年)によって生まれたギリシア系の国々に支配されていた。

 それらの国々では共通語としてギリシア語が話されていた。

 ローマ帝国に支配された後も、この地域での共通語はギリシア語であり、ラテン語よりギリシア語が普及していた。

 新約聖書は、ユダヤ人だけでなく異邦人(非ユダヤ人)へも、幅広く福音(キリストの教え)を広めるため、当時の国際共通語であったギリシア語を用いて書かれた。

 

 

3)コイネー・ギリシア語(新約聖書ギリシア語)

 

 ギリシア語は、大変長い歴史を持つ言葉だ。

 日本の歴史よりもっともっと長い。

 ヨーロッパの言語で一番初めに文字で記された言葉とされている。

 だから時代ごとに異なるギリシア語が用いられている。

 

 新約聖書は、紀元前4世紀のアレクサンドロス大王の遠征から紀元後4世紀のローマ帝国コンスタンティノープルへの遷都までの間に用いられていた “コイネー・ギリシア語(共通ギリシア語)” で書かれている。

 コイネー・ギリシア語は、古典ギリシア語(イオニア・アッテカ方言 “アテネ市を中心とした地域の方言” )から作られた共通語としてのギリシア語だ。

 古典ギリシア語よりやや簡略化されており、現在のギリシア語の基礎となっている。

 

<古典ギリシア語>

 イリアス・オデュセイヤ、ヘロドトスプラトンアリストテレスの各著作が書かれた時代(都市国家の時代・BC8世紀~BC4世紀)のギリシア語。

 

 

4)新約聖書原典について

 

 紫式部源氏物語を筆で書いた紙(原稿)が今でも残っているだろうか?

 清少納言枕草子を筆で書いた紙(原稿)が今でも残っているだろうか?

 残念ながら1つも残っていない。1枚、1字、1句、まったく残っていない。

 そもそも、紙であっても経年劣化する。

 厳重に保管するか、奇跡的な好条件に恵まれない限り、1000年もたつとボロボロになってしまう。

 今に残っているものは、後世の人が書き写した写本だけだ。

 それらの写本から作品を導き出している。

  

 新約聖書も同じ。聖書記者が書いた親筆書(聖書原典)は残っていない。

 1枚、1字、1句、まったく残っていない。

 しかし、聖書記者の親筆書を書き写した写本が、多数、今に至るまで残っている。

 その数なんと5000部。

 ガリア戦記タキトゥスの「年代記」など、重要な名著であっても、2000年の時を経て残っているものは10部から20部程度。

 新約聖書は、その500倍から250倍もの写本が残っている。

 “いかに多くの人が、この本の重要性を認識していたか” がうかがわれる。

 

 多くの写本を比べ、写し誤りを除き、親筆書に限りなく近い状態の文書を求める作業を本文批判(ほんもんひひょう)と言う。

 これは、とても大変な作業だ。

 でも聖書は1字1句損なわれてはいけない神様からのメッセージ。

 ものすごく慎重にこの作業が進められ、2000年の時を経て現在まで神様からのメッセージ(新約聖書)が伝えられてきた。

 これはものすごくすごいこと。昔の人にいくら感謝しても感謝しきれない。

 私たちが2000年前のイエスの言葉をじかに読めるのは、「神の奇跡」と言っても、過言ではない。

 新約聖書ギリシア語を学ぶとは、“この奇跡を体感すること” である。

 

 現在、最も権威がある新約聖書原文(コイネー・ギリシア語)は、ネストレ・アーラントの「ノーウム・テスタメントゥム・グラエチェ(Novum Testamentum Graece)」、現在、28版までが出版されている。

 日本で普及している新改訳聖書および新共同訳聖書もこのネストレ・アーランドの「ノーウム・テスタメントゥム・グラエチェ」を底本としている。

 

 新改訳聖書の新約部分の底本は、ネストレ・アーランド「ノーウム・テスタメントゥム・グラエチェ 第24版」

 

 新共同訳聖書の新約部分の底本は、聖書協会世界連盟のギリシア新約聖書修正第3版(ネストレ・アーランド「ノーウム・テスタメントゥム・グラエチェ 第26版」と同じもの)