聖書ギリシア語の夕べ

日本聖書神学校の聖書ギリシア語通信講座でコイネー・ギリシア語を勉強しています

2)原シナイ文字からフェニキア文字を経てギリシア文字へ 5

 

 ギリシア語は紀元前18世紀から紀元前15世紀まで線文字Aと呼ばれる文字(未解読)で書き記されていた。

 その後、紀元前13世紀まで線文字Bで書き記されていたが、その後、500年間、文字記録が消えてしまった。

 この時期を古代ギリシアの暗黒時代と言い、謎の空白期間となっている。

 その後、フェニキアから文字が伝わり、紀元前8世紀、現在まで使用されているギリシア文字が使われるようになった。

 

【 原シナイ文字 】

 エジプトの象形文字の一部を抽出し、その頭音を用いることで作られた文字。

 

フェニキア文字

 原シナイ文字から作られたフェニキア語(セム系の言葉)を書き記した文字。この文字からギリシア文字が作られた。

 

 セム系の言葉では文字はすべて子音を表す。母音の文字はない。したがってフェニキア文字はすべて子音を表す。(現在、セム系の言葉は記号で母音を表している)。ギリシアでは、本来、子音を表す文字をかり、母音にあてた。子音も母音も文字で表すアルファベットは、ギリシア文字が最初。

 

 

アルファベットの解説

 

一番上が原シナイ文字、真ん中がフェニキア文字、一番下がギリシア文字。

 

 

【 Α α アルファ 】牛の頭が由来の数としては1を表す文字

 原シナイ文字では牛の頭を横から見たような形。フェニキア文字では「アレフ」と呼ぶ。この文字を90度回転しギリシア文字の「アルファ」となった。本来は子音であったが、ギリシア語には必要のない子音だっため、ギリシア語では[a]の音を表す母音の文字として使用。

 

【 Β β ベータ 】家が由来の数としては2を表す文字

 原シナイ文字では四角形で家を形どった絵文字。フェニキア文字では「ベト」と呼ぶ。この文字がやや傾き45度回転しフェニキア文字となり、三角の山が2つでき、180度回転し、裏返しになってギリシア文字の「ベータ」になった。古典ギリシア語では[b]、現在ギリシア語では[v]の音を表す文字。

 

【 Γ γ ガンマ 】ラクダが由来の数としては3を表す文字

 原シナイ文字ではラテン文字のLによく似た形。ラクダが由来。180度回転しフェニキア文字の「ギメル」となり、裏返しにしてギリシア文字の「ガンマ」となった。ギリシア語では[g]の音を表す文字。

 

【 Δ δ デルタ 】扉が由来の数としては4を表す文字

 原シナイ文字では魚のように見えるが、これは扉。フェニキア文字の「ダレト」となり、ギリシア語の「デルタ」となった。ギリシア語では[d]の音を表す文字。

 

【 Ε ε エプシオン 】人が喜ぶ姿が由来の数としては5を表す文字

 原シナイ文字では人が両手をあげているように見えるが、これは人が喜ぶ姿。フェニキア文字では「ヨ」の文字の縦棒を伸ばしたような形。フェニキア文字の「へー」となり、180度回転しギリシア文字の「エプシロン」となった。フェニキア文字では子音の[h]を表す文字だったが、ギリシア語では[e]の音を表す文字となった。

 

 

 

【 Ζ ζ ゼータ 】オリーブの木が由来の数としては7を表す文字

※6を表す文字はシグマの語末形「ς」なので、「ゼータ」は7を表す文字になる。

 原シナイ文字では、横に2本の棒を引いた形、イコールの記号のような文字。フェニキア文字では縦一本のラテン文字の「 I 」に似た文字となり、フェニキア文字では「ザイン」と呼ぶ。上の棒と下の棒が伸び縦の線が斜めとなりギリシア文字の「ゼータ」となった。ギリシア語の[zd]の音を表す文字。

 ラテン文字では、この位置に新たに創出した「G」の文字を置き、ギリシア語起源の単語を書くときのみ使われる「Z」はアルファベット配列の一番最後に置かれた。

 

【 Η η エータ 】ねじれた紐が由来の数としては8を表す文字

 原シナイ文字では、団子のような形をしていたものが、フェニキア文字ではハシゴのようになり「ヘト」と呼ぶ。フェニキア文字では子音を表す文字であったが、ギリシア語では[e-]の母音があてがわれ「エータ」となった(現在ギリシア語では[i]の音)。ラテン文字とは読みが全く異なるので注意が必要な文字。

 

【 Θ θ シータ 】由来は不明の数としては9を表す文字

 原シナイ文字の由来は不明。フェニキア文字では漢字の田の字に似た文字。十字を書いてそれを丸で囲んで文字にしていたようだ。フェニキア文字の「テット」。ギリシア語では「シータ」となり、発音は[th]。

 

【 Ι ι イオータ 】腕が由来の数としては10を表す文字

 原シナイ文字では、横から見た腕に手首や指が想像される字形をしてる。フェニキア文字の「ヨッド」。該当する子音がギリシア語になかったため、[i}の音を表す文字となった。

 

【 Κ κ カッパ 】手のひらが由来の数としては20を表す文字

 原シナイ文字では「手のひら」を意味していた文字。フェニキア文字「カフ」ギリシアに伝わって来る過程で左方向に90度回転し、裏返しにされたりして、ギリシア語の「カッパ」となった。ギリシア語では[k]の音を表す。

 

 

 

【 Λ λ ラムダ 】突き棒が由来の数としては30を表す文字

 原シナイ文字では握りのついた杖のような形。フェニキア文字の「ラメド」。フェニキア文字では180度回転し、ラテン文字のLに似た文字となり、さらに回転しギリシア文字の「ラムダ」となった。ギリシア語では[l]の音を表す文字。

 

【 Μ μ ミュー 】水が由来の数としては40を表す文字

 原シナイ文字では山並みにも見えるが、これは波立つ水面を描いた絵文字。フェニキア語の「メム」となり、ギリシア語の「ミュー」となった。[m]の音を表す文字。大文字はラテン文字と同じだが小文字は左の棒が下に伸びた独特の形。

 

【 Ν ν ニュー 】蛇が由来の数としては50を表す文字

 原シナイ文字ではヘビのような形。フェニキア文字の「ヌン」。ギリシア文字に入り、古典期は「ニュー」、現在は「ニ」と呼ぶ。[n]の音を表す文字。

 

【 Ξ ξ クシー 】魚が由来の数としては60を表す文字

 原シナイ文字では「魚」を形どった文字。フェニキア文字では「サメク」と呼ぶ。ギリシア語では[ks]の音を表す。

 

【 Ο ο オミクロン 】目が由来の数としては70を表す文字

 原シナイ文字では「目」を形どった文字。フェニキア文字では「アイン」と呼ぶ。黒目の点が消えフェニキア文字となり、それが縦長の楕円となりギリシア文字の「オミクロン」となった。本来は子音を表す文字だったが、ギリシア語にはない子音だったため、母音の[o]があてがわれた。

 

 

 

【 Π π ピー 】口が由来の数としては80を表す文字

 原シナイ文字で口を意味する絵文字に由来。フェニキア文字では2本の棒となり「ペー」と呼ばれ、ギリシア語では左右対称の文字となり頭にふたがかぶさり「ピー」となった。[p]の音を表す文字。

 

【 Ρ ρ ロー 】人の頭が由来の数としては100を表す文字

※90を表す文字は「コッパ」という記号。

 原シナイ文字では人の頭を表す絵文字だったものが、簡略化され、反転し、フェニキア文字の「レシュ」となり、ギリシア文字の「ロー」となった。[r]の音を表す文字。ラテン文字では[p]の音を表す文字。発音が異なるので注意。

 

【 Σ σ ς シグマ 】歯が由来の数としては200を表す文字

 原シナイ文字では山並みに見えるが、これは人間の歯。ラテン文字のWみたいな形になりフェニキア文字「シン」となる。ギリシア文字では大文字の他、小文字が2つあり、語末のみは「ς」と書く(この文字は単独で数字の6を表す)。ギリシア語では[s]の音を表す。

 

【 Τ τ タウ 】標識が由来の数としては300を表す文字

 原シナイ文字では十字の印。フェニキア文字の「タウ」。ギリシア文字でも「タウ」。[t]の音を表す。ラテン文字の小文字は縦棒が上へ突き抜けるが、ギリシア文字では小文字も大文字と同じで突き抜けないので注意。

 

【 Υ υ ユープシロン 】棍棒が由来の数としては400を表す文字

 原シナイ文字ではピンのように見えるが、これは棍棒フェニキア文字ではさすまたのような形になり「ワウ」と呼ぶ。左側のFのような文字は「ディガマ」で現在使われていないが、同じ文字が由来のため併記した。[y]の音を表す。

 

 

 

【 Φ φ フィー 】ギリシアで作られた数としては500を表す文字

 ギリシアで新しく作られた3文字(Φ Χ Ψ)の一つ。[f]の音を表す。もともとはπηの二文字でこの発音を表していた。そのため今でもΦをラテン文字ではphで表す。

 

【 Χ χ ヒー 】ギリシアで作られた数としては600を表す文字

 ギリシアで新しく作られた3文字(Φ Χ Ψ)の一つ。[k]の音を表す。ラテン文字とは読みが異なるので注意。ちなみにクリスマスのことをXマスと呼ぶのはギリシア語でのキリストの呼び名、Χριστός(クリストス)の頭文字に由来する。

 

【 Ψ ψ プシー 】ギリシアで作られた数としては700を表す文字

 ギリシアで新しく作られた3文字(Φ Χ Ψ)の一つ。[ps]の音を表す。Yの字から新しく編み出された文字。私はこの文字を見るとユダヤの伝統的な燭台(メノーラー)を連想してしまう。

 

【 Ω ω オメガ 】オミクロンと由来は同じ数としては800を表す文字

※900を表す文字はサンビという記号。

 フェニキア文字「アイン」の底を開いて作った文字。オミクロンと由来は同じだが、こちらは長い母音、[o-]を表す。時計メーカーの商標として有名。

 また「最初から最後まですべて」との意味で「アルファからオメガまで」が使われる。

 

 由来は、諸説あり、これはその中の一説。

 このページは、福田千津子 著「現代ギリシア語を書いてみよう読んでみよう」(白水社)、およびウィキペディアなどから情報を集め作成した。