3)横書きの文字の書く向きの違いについて 8
ギリシア語をはじめヨーロッパの言語は左から右へと書く。
一方、アラビア語など中東の言語は右から左へと書く。
その理由だが、私が聞いた話では、以下のようないきさつがあったらしい。
大昔、最初に人が文字を書いたのは、紙などの繊維質のものではなく、石や粘土板のような固いものであり、文字の書き方は筆にインクをつけてではなく、ノミと金槌(かなづち)で石や粘土板に刻みつける方法だった。
人間の9割以上は右利きだから、右手に金槌、左手にノミを持って文字を刻むこととなる。
後退しながら文字を刻むより、前進しながら文字を刻む方が自然だ。
そうすると、右から左へと文字を刻む流れになる。
したがって、当時、文字は右から左へと書かれることが普通であった。
だから、文字を粘土板に刻む時代から文字を持つセム系の言語では、文字は右から左へと書かれる。
時代が下り、文字は筆とインクを使い繊維質の薄っぺらい用紙に書くようになった。
石に刻みつけるのは大変な作業だし、粘土板に刻んで文章を書いたら、1冊の本を作るにもとんでもない量の粘土板が必要だ。
その粘土板を収納するのも大変だし、読むのも大変。読書は肉体労働である。
何かの小説で読んだが、古代バビロニアの神官が、図書館で読書中、本の重みで本棚が壊れ、本(粘土板)が落ちて圧殺されてしまう話があった。
当時、読書は大変な作業であり、また粘土板で本を書けば、とてつもなく広い収納スペースが必要だった。
そこで文字を記す媒体として、パピルス紙や羊皮紙などが発明された。
これらの用紙は粘土板と違いノミと金槌で刻みつけるわけではない。
筆をインクに浸し、そのインクで文字を書きつける。
そうすると、これまた人は右利きが多いから、右から左へと文字を書いた場合、書いてすぐの文字の上を手でこすることとなる。
粘土板に文字を刻む場合、書かれた文字の上を手でなぞっても問題ないが、インクをつけただけの紙ではインクが乾く前に触ったら字がにじんでしまう。
そこで、書いたばかりの文字に触れないように書くため、右から左へと文字を書くようになった。
したがって、ギリシア文字など、パピルスや羊皮紙の時代から用いられた文字は、それらに合わせ左から右へと書くようになっている。
以上が、西洋の文字の横書きの書く方向の話。
一方、東洋では、漢字は基本的に縦書きであり、日本語の仮名文字も縦書。
本来、日本語は縦書きで、行(ぎょう)は右から左へと向かう。
そのことから、明治時代以前の日本では、横書きで文字を書く時、縦書きを1字で改行する感覚で、右から左へと文字を書いていたようだ。
日本で最初に横書きで左から右へ文字が書かれたのは、江戸時代の外国語辞書だったらしい。
その後、大正時代から左から右へと文字が書かれることが増えた。
そして、大正時代から昭和初期、日本が戦争に負けるまでは、日本古来の右から左と西洋渡来の左から右の2つの書き方が混在していた。
戦時中の新聞などを見ると、見出しは右から左の横文字で本文は縦書きになっていたりする。お札などでは、日本銀行は“行銀本日”と書かれ、ローマ字は“Nippon”となっている。
日本で横文字の書き方が左から右へと統一されたのは、戦後のことらしい。
今では相当、年代物でないと、右から左へ書かれたものは見ない。
右から左へと書かれた文字を見ると、私は「年代物だな~」と感じてしまう。