11)新約聖書ギリシア語の語順・文章の読み方 15
ギリシア語は格変化により主語か目的語か表せるため、語順に関しては比較的自由だ。
新約聖書ギリシア語では、基本的には主語・目的語・動詞のSOV の形をとるが、そうでないことも多い。
しかも、修飾語もてんでバラバラに散らばっているように見えるので、以下の文法のルールを知らないと、文章が読めない
※注意!現代ギリシア語は基本がSVO型。
1)“ギリシア語は動詞を中心にできている”ので動詞を探す
動詞は文章のどこに来るか分からない。最初に来たり、真ん中に来たり、ひどい場合は修飾語と名詞の間に来たりもする。基本は最後なので、最後を見て、なければ他の場所を探す。
動詞には動詞特有の語尾(ω/εις /ει/ομεν/ετε/συσιν)がある。
2)文章中に動詞がなければ、冠詞のつかない形容詞を探す
ギリシア語では名詞を修飾する形容詞には冠詞がつく。冠詞がつかない形容詞は単独で述語となる(動詞を省略した文型)。
3)名詞は位置ではなく格により主語か目的語かを判断する
英語は単語の位置で主語か目的語か判断するが、ギリシア語は名詞の格変化で判断する。
動詞が主語の前に出てしまうことも多く、目的語が主語の前に出てしまうものもある。
必ず格を見ること。
4)冠詞のついた形容詞は数、格、性が一致する名詞を修飾する
ギリシア語の形容詞は、単数か複数かの数、格変化、性を持ち、修飾する名詞に合わせ、それらが変化する。※冠詞のつかない形容詞は動詞を省略した文章の述語となる。
5)ギリシア語は基本的に後ろから前の言葉を修飾する。名詞が修飾語の時は属格になる
ἴδε ὀ ἀμνὸς τοῦ θεοῦ.
見よ! 子羊 神の
名詞であっても、属格なら修飾語と分かる。
<分かりやすいSOV型の基本形>
ὀ θεός αγάπη έστίν. ἐστίνが動詞(注目!)
※ἐστίνのνは語末か次の文字が母音の時につく。
動詞によってその文章がどの文型か分かる。この文章はἐστίν(εἰμἰ)なのでコピュラ文。
コピュラ文とは “ 主語 = 補語 ” になる文章のこと。英語のbe動詞を使った第2文型にあたる。
ὀ θεός αγάπη έστίν.
冠詞 名詞 補語 動詞
S C 0
日本語訳: 神は 愛 です 。
<主語が省略された形>
ἀμὴν ἀμὴν λέγω σοι. λέγωが動詞(注目!)
λέγωは1人称単数形なので、主語はεγώ(私)と分かる。εγώは省略されている。
この文章はλέγω(他動詞)なので、目的語をとる。
英語の他動詞を使った第3文型にあたると分かる。
εγώがないことから主語は省略されているので、目的語(名詞)を探す。
動詞の前はἀμὴνだが、これは感嘆詞なので目的語になれない。
新約聖書ギリシア語では語順の規則はゆるい。SOVとは限らない。動詞の前に目的語がなければ後ろを探す。σοιは与格(目的語の格)。σοιが目的語と分かる。
ἀμὴν ἀμήν λέγω σοι.
感嘆詞 感嘆詞 動詞 目的語
(S) V O
主語は動詞で分かるため省略。
日本語訳: まことに、まことに、私はあなたがたに言います。
※日本語でも主語は省略されることが多いが、日本語の場合、動詞の形から主語が分かるわけではない、文脈から判断しているだけなので、必ず主語をつけて訳す。
<動詞が省略された形>
ὁ θεός ἀληθινός. 動詞がない!冠詞のつかない形容詞を探す。
形容詞を修飾語として名詞を修飾する時は冠詞をつける(形容詞の属性的用法)。
冠詞がつかない形容詞は述語となる(形容詞の述語的用法)。
ὁ はθεόςの冠詞なので、ἀληθινόςには冠詞がつかない。形容詞の述語的用法と分かる。
θεόςは主格(主語の格)なので目的語ではなく主語だと分かる。
ὁ θεός ἀληθινός.
冠詞 名詞 形容詞(述語的用法) 動詞 ἐστἰ νが省略されている。
S C (V)
日本語訳: 神は真実だ。
その他のルール
1)主語は省略されることが多い
ギリシア語では主語によって動詞が変化するため、私、あなた、彼、彼女、それ、などの主語は、基本的に省略される。そのため主語が省略されOV型の文章になる。
2)動詞が省略されることもある
主語と補語だけの文書は英語のbe動詞に相当する動詞εἰμἰ(エイミ)が省略される。日本語の形容詞と同じようにギリシア語の形容詞も単独で述語になることができる。ただし述語になる形容詞には冠詞がつかない。
3)後置詞は文頭に置けないので、2番目にくる
δε(さて)、γαρ(したがって)などの接続詞は後置詞となっているため、文の頭に置けない。そのため2番目に来る。
冠詞が文頭にくる文章では、後置詞は冠詞の後ろにつくので、冠詞と名詞(主語)の間に接続語が来るような、日本人から見ればおかしな形をとる。
<後置詞のある文章>
εἶς γάρ ἐστιν ὑμῶν ὀ διδάσκαλος.
動詞はἐστιν。ὑμῶνは属格なので目的語ではなく修飾語。基本は後ろから修飾だがこのように前に出ることもある。
διδάσκαλοςが冠詞のついた主格の名詞なので主語になる。
εἶςは、一人称、男性、主格で補語となる。
γάρは後置詞なので文頭には置けないため、εἶςの後ろに来る。文章の意味を考えるときは省いてみると分かりやすい。
この文は主語と補語がひっくり返ってしまっているため、読みにくい。
εἶς γάρ ἐστιν ὑμῶν ὀ διδάσκαλος.
補語 接続詞 動詞 主語
C V S
基本的な形にするとこうなる。
ὀ διδάσκαλος ὑμῶν εἶς ἐστιν.
主語 補語 動詞
S C V
これに後置詞のγάρを加える。
ὀ γάρ διδάσκαλος ὑμῶν εἶς ἐστιν.
冠詞 接続詞 主語 補語 動詞
S C V
これが本来の形。
日本語訳: ですから、あなたがたの先生は一人なのです。